『芽むしり仔撃ち』

今月初頭から読み始めてようやく読了した。
これで4回目か5回目の通読だが、何度読んでもこの小説は最高だ。
ストーリー、キャラクター、文章、そのどれもが最高という、
殆どありえないほどの傑作である。サルトルフロベールの『ボヴァリー夫人』を
「完璧な小説」と言っていたはずだが、僕にとってはこの『芽むしり仔撃ち』こそが
完璧な小説と思える。多分これが僕にとっての「私の一冊」になるでしょう。


こういう小説を読むと、自分も小説を書いてみたいという希望と、
自分なんか小説書いてもしょうがないという絶望の両方が心に生まれる。
言い換えれば、この小説が自分にとっての「神」ということか。
神といっても絶対的な信仰というほどの深い信心でないことは明らかだが、
今はとりあえず、極めて美しくさほど人に知られていない神を持ちえたことを喜びたいと思う。
それはともかく、改めて驚くのは、この作品が23歳の青年によって書かれたという事実だ。
「飼育」や「奇妙な仕事」を読むにつけても、当時の大江健三郎が真の天才だったことがよく分かる。
「若く、無名で、貧しいことが創造の条件である」と言ったのは毛沢東だそうだが、
無名で貧しいだけではダメなんだろうなあ、やっぱり。。。。